「CARD:ヒンドゥー儀礼研究のための基礎資料」の公開のために

永ノ尾信悟

(東洋学研究情報センター刊「明日の東洋学」より転載)

40年ほど前にインド哲学の勉強を始めたときから、いろいろな方法で資料の整理を試みてきました。大学ノートやルーズリーフ、京大式カードや図書カードに見出し語をつけてメモを作ってきました。東洋文化研究所に勤める前に働いていた国立民族学博物館は早くからコンピュータを導入しておりました。まわりにコンピュータの専門家もおり、30年ほど前から、こんどはコンピュータのエディタを用いて資料の整理と蓄積を始めました。それ以前に最もよく利用していた図書カードの延長という意味でそのファイルの名前をCARDとしました。このCARDについては、この『明日の東洋学』の(2000年12月発行)で「ヒンドゥー儀礼研究のための基礎資料」と題して概略を報告しました。この2012年のうちに、東洋学研究・情報センターの広田准教授の全面的な支援のもとで、センターのホームページを通じてこのCARDを公開することにしました。公開する場合、利用者のためにこのデータベースの説明と利用方法を示す必要があります。この報告ではそのCARDの説明と利用方法の原案のかたちでCARDの現在の状況と問題点を説明することにします。

  1. CARDは南アジアの儀礼を中心とした文化のさまざまなレベルの要素を見出し語として整理したデータベースである。
  2. 見出し語は英語のアルファベットの順に入力されている。
  3. 説明は基本的に英語である。
  4. サンスクリットの表記はいわゆる Kyoto-Harvard 方式に従う。(喉音の前の鼻音は G ではなく n を用いて、また口蓋音の前後の鼻音は J でなく n を用いて表記している。)
  5. 典拠となるサンスクリット文献は省略形で表示している。
  6. グリフヤスートラへの補遺文献までのヴェーダ文献は vedic texts の見出し語で検索ができる。
  7. 個々の文献に関する書誌情報や研究情報はそれぞれの文献の省略していない名称の見出し語のもとに入力している。 例:アタルヴァヴェーダパリシシュタは atharvavedapariziSTa の見出し語により検索できる。アタルヴァヴェーダパリシシュタの省略形は AVPZ であるが、atharvavedapariziSTa と abbreviation の重複検索で AVPZ であることを確認できる。他の文献の省略形も同様にして検索できる。
  8. 書誌情報のうち校訂本は edition、翻訳は translation、内容は contents との重複検索で、研究情報は bibl. との重複検索で知ることができる。
  9. マハーバーラタ、プラーナ文献、そして『マヌ法典』以降の法典文献も個々の文献そのものの情報は省略しないテキスト名のもとに入力している。
  10. マハーバーラタの省略形は mbh、プラーナ文献と法典文献は固有の名称と puraaNa または smRti のあいだにスペースをいれて典拠文献として示す:パドマプラーナそのものへの情報は padmapuraaNa により、典拠文献としては padma puraaNa により検索できる。
  11. ダルマニバンダなどその他の文献、仏教文献は省略されていないかたちですべて入力している。
  12. 以前のフロッピーデスクの容量の制約でデータベースCARDは card1111 から card422 の18個のファイルからなっている。それぞれのファイルの冒頭の文字または語は以下のものである: card111 a, card112 akSaya, card112 b, card121 c, card122 dhaanya, card211 g, card212 homa, card221 kapaala, card2221 madya, card2222 mantra, card311 n, card312 pavadi, card321 r, card322 saras, card411 t, card412 upendra, card421 viSNu, card422 yuga。
  13. 見出し語の後のさまざまな情報は Tab 3回分のスペースから始まる。見出し語が Tab 3回分より長い場合はその語の後に Tab を一回取って説明をはじめている。
  14. いくつかの語や省略形が機能的な役割をはたしている。すでに述べたように edition, translation, contents, abbreviation は典拠文献そのものへの情報を与えてくれる。典拠文献とその他の見出し語への研究情報は bibl. が、関連項目は see が教えてくれる。ある見出し語の下位の要素は var. によって見つけることができる。(私自身 see によるのか var. によるのか迷うことがある。)
  15. ヴェーダ祭式は zrauta ritual と gRhya ritual の見出し語のもとで全体像を見ることができる。それ以外の儀礼は基本的に個々の儀礼名称により検索をする必要がある。特にプラーナ文献が記述する年中儀礼には鳥瞰的な情報をまとめることができていない。(今後 tithivrata の見出し語のもとで試みたい。)
  16. ある儀礼の見出し語のもとに理想的には以下の項目がみられる。see :関連項目、bibl. :研究文献情報、txt. :典拠文献における記述箇所、contents. :ある文献の記述の内容、vidhi. :ある文献のサンスクリットの記述、note :ある儀礼に特有な要素、たとえば儀礼の行われる時、場所、など。
  17. その他の全体的な関連をもつ見出し語:places of rituals :普通の祭場以外のさまざまな場所を see で列挙している。times of rituals :儀礼の行われる特殊な時間、ritual act :さまざまな要素的な儀礼行の一覧、fauna :儀礼文献などに言及される動物の一覧。flora :儀礼文献などに言及される植物の一覧。metal :金属、鉱物などの一覧。儀礼の効果、結果などの一覧は bhaya、kaama、phalazruti、siddhi の見出し語のもとで一覧的に見ることができる。
  18. ヴェーダ祭式の解釈文献ではさまざまな儀礼要素を、他の存在、観念などと同一視する場合が非常に多い。それらの例は :: によって見出すことができる。例えば oSadhayaH (Tab) :: aapaH. KS 13.4 [184,14] (kaamyapazu, prajaakaama) は「oSadhayaH 植物たちはaapaH 水たちと等値されているが、願望的犠牲獣祭の子孫を望む儀礼を記述するカタ・サンヒターの13章4節、使用した校訂本の184ページの14行においてで見ることができる」ことをしめす。それに対して aapaH (Tab) :: oSadhayaH, see oSadhayaH :: aapaH (MS, KS, TS) という情報は「水たちは植物たちと等値されるが、それに関しては植物たちが主語になっている場合のところを見よ、MS、KS、TS の省略形でしめされる文献のところで記述されている」ということを示している。
  19. データベースCARDにはさらに pmantr11、pmantr12、pmantr21、pmantr22 の4つのファイルが含まれている。ヴェーダ文献のマントラは M. Bloomfield の Vedic Concordance によって多くを検索できる。それ以外の文献のマントラを収録したのがこれら4つのファイルである。
  20. pmantr* はサンスクリットのアルファベットの順に配列されている。pmantr11、pmantr12、pmantr21、pmantr22 はそれぞれ a、k、p、r からはじまる。 例を示す:avasRja punar agne pitRbhyaH // (TA 6.4.2.f) BaudhPS 1.11 [16,5] (pitRmedha). AgnGS 3.6.3 [151,13] (pitRmedha). 母音 a ではじまるマントラであるので pmantr11 に含まれている。マントラの引用は // で終わる。その直後にヴェーダのマントラの場合( )内にヴェーダ文献を挙げる。このマントラが登場する儀礼文献の箇所と、その後の( )に儀礼の種類を明示する。(現在、儀礼の種類の言及は極めて不備である。)

データベースCARDはまだまだ不完全である。単純には多くの誤字、脱字があるからである。他方このデータベースは作成者が死ぬまでに完成することはないと思われる。このデータベースが扱う南アジアの儀礼を中心とした文化要素があまりに膨大にすぎるからである。さらに、作成者の関心と視点が、データベースを作成する作業を通じて変化していくので、絶えず追加、修正をしなければならない。 不完全であるが少なくとも作成者にとりきわめて便利なものである。しかし作成者以外の利用者にとり便利なものでない可能性がおおいにある。上に述べたこのデータベースの説明だけでは、このデータベースのことがわかりにくいと思われる。このデータベースはホームページのインターフェースを通じで重複検索ができるが、全体がそれではわからない。CARDに含まれる card* と pmantr* はファイルとしてダウンロードすることができる。ダウンロードしたそれらのファイルを開いて眺めてみていただけると、作成者がどのようなつもりでこのデータベースを作ったかが、より明瞭にわかっていただけるかもしれない。

誤字、脱字の指摘、不足している情報の捕捉など利用者が気づかれたことを作成者にメールでお知らせ願いたい。絶えず更新していき、不備の少ない、役に立つデータベースになるように試みていく。

利用者がこのデータベースを何らかのかたちで利用して論文などを書かれ場合、このCARDを利用したことに言及してくださればありがたい。